会社で短歌を展示した&2018年2月の短歌

自分が働いている会社でのこと。社内のクリエイターが自身の作品を業務後に展示するイベントがあった。なんて素敵なイベントなのだろう。イラストやゲーム、自作キーボード、アクセサリー、ゲーム、バンド演奏、詩、多種多様なものづくりが揃った。なにかをつくるのが好きな人が社にはいっぱいいて、誇らしい気持ちだった。

僕はタイトルの通り、2月の途中から1日1首ずつ書き溜めていた短歌をこの機会に発表した。印刷して壁に貼るというシンプルなものだ。ついでに自分が書いた中で好きな増田(はてな匿名ダイアリー)を印刷して貼った。

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ときおり人が足を止めて、前傾して見てくれる。僕は恥ずかしくて見ていられなかった。柱の向かいにあるガラス張りの会議室から、止まる靴だけを横目に見ていた。

あとから何人かの尊敬する人に褒めてもらい、日曜の23時に感じるような鬱屈した心が昇華されたような気がした。短歌を書くだけで満足していたけれど、誰かに触れることで初めて昇華されるのかもと思えた。言葉に込めた気持ちが微炭酸の気泡のように、じんわりと上っていった。

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増田をA3でカラー印刷するなんて今後一生無いかもしれない。

 

実はシンプルに短歌を貼る前は、ちょっと変わったことをしようとしていた。直近で見たアート方面の刺激をもろに受け、一捻り加えようと画策していた。それがこれ。

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カスタマージャーニーマップみたいにして短歌を設置するもの。時系列に沿って感情の移ろいを示そうとしたのだ。単純に短歌を並べるだけだと、せっかく毎日書いていて人生の連続感があるのに、それが表現されずもったいないと思っていた。そこで身体性を獲得するために時間を意識した並びにし、人間性を獲得するために、感情をもう1つの軸に取るのはどうかと考えた。そしてこのフォーマットってソフトウェア開発でよく使うカスタマージャーニーマップじゃん!と気づいたのだ。カスタマージャーニーマップとは顧客がサービスを使う体験全体を整理するために使うものだ。ただ感情については付箋1枚に「買えて嬉しい」とか大雑把なことを書くか、ただのグラフにして示す程度だ。そこでもし、顧客のことを短歌くらい情緒豊かに捉えられたら?ほんとうは捉えるべきでは?という批評性のあるものにもなりえた。

など、知的に興奮しながらプロトタイプをつくってみたものの、大事な言葉がすごく散ってしまってつらかったのでやめた。写真はプロトタイプ。結局、真っ白な紙の上に、十分な行間を持って縦に言葉を並べるだけで、あの空間は満ち満ちているのだと思い知った。欲張りな小細工ではとてもじゃないけどA4コピー用紙に印刷された5行の短歌にすら勝てないよ。

というわけで、2月の短歌をまとめて置いておきます。

 

2018年2月の短歌

 

前髪を重く瞼に乗せたままかき上げないで夜を見ている


目の前の男の人にファスナーが開いていますと今日も言えない


恐竜のような声上げ中央線 僕の前には止まらず過ぎる


GPSが壊れたように僕はまだ彼女の家で昼寝している


僕たちだけの挨拶をして遭う夜 コンクリートが上から溶ける

 

誰からも見えない場所を探してる渋谷の夜とこの駅の朝

 

炭酸が抜けてしまってもまだ好きと僕に言ってくれないだろうか

 

アパートの真上で人が死ぬように真下の僕は生きているのだ

 

大勢でモンスターを殴る切るし皮を剥いで夜空に浮かべる

 

透き通るモブ波の群れ目が回り瞼の裏の虫を見つめる

 

教室の後ろのおまけ黒板がインターネットのはじまりだったら

 

おじさんが描く女子高生たちは絶対LINEで喧嘩できない

 

冬の夜 駅を刻めば刻むほどコマ撮りになる僕はなめらか

 

耐えるんだ幸せなんかに負けんなよほんとはもっと暗いはずだろ

 

悩んだり相談したりした末に誕生祝いに苺を贈った

 

今になって雪を探して見つからない消えてしまうのはすべて雪

 

風に舞うホームページを追いかけて君が育てたトマトを見つける

 

目立つ位置に心をつけているのに今日も誰も触れてはくれない

 

「おなかに赤ちゃんがいます」大声で叫ぶ男のおなかに居るもの

 

春が来る前には君を殺さなきゃあるいは僕を抱いてあげなきゃ

 

エンターキーを気持ちよく押すために長い助走があるのかもしれない

 

たぶん許してはくれないと思うが僕はあなたのガムが食べたい

 

この街で僕らが一番楽しいと本気で思える夜は数ミリ

 

日曜の家族が集う公園で音量上げるナンバーガール

 

うずくまり泣いてる女性を乗せながら終着駅に着いてしまった

 

冬と冬と冬とわずかな春とが君のコートを奪い合ってる

 

 

以上。

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3月も飽きずにやっていきましょう。